転んで手や膝に擦り傷を作ってしまったとき、数日したらその部分が茶褐色になって、かゆみやこわばりを感じる「かさぶた」になったという経験をしたことがある人は多いでしょう。日常動作の中で、このかさぶたが不意にはがれてしまったり、どうしても硬さが気になって無理に剥がしたくなったりしますね。
床ずれが起こった部分も、同じようにかさぶたで覆われることがあります。動くたびに皮膚が引き攣れて、思わず触りたくなるこのかさぶたは、実は無理に剥がしてはいけません。
〇床ずれを覆うかさぶたの正体は
皮膚が損傷した部分にできるかさぶたの事を、医学的用語では「痂皮(かひ)」と呼びます。皮膚が傷ついた部分は、滲出液がにじんで皮膚の組織を再生・形成する働きをはじめますが、出血した傷部分の血液に含まれる血小板が止血の役割をし、その血小板が凝固してかさぶたになるのです。
かさぶたは、上皮組織の損傷に起こりやすく、擦り傷や床ずれのような損傷によく現れます。傷ついた皮膚を覆い、その下で着々と皮膚を修復形成しています。かさぶたの下に皮膚ができれば、自然と剥がれ落ちます。
〇かさぶたは無理に剥がさないほうが良い
前述したように、かさぶたが患部を覆っている状態では、まだその傷の下で皮膚組織がきちんと修復されていません。自然とかさぶたが剥がれ落ちた部分を注意深く見ると、周辺の皮膚と比べてうっすらとピンク色をし、まだ皮膚が薄い印象があるでしょう。
傷ついた皮膚と元の皮膚の境界部分から、傷の中心に向かって皮膚は修復していきます。完治間近になると、傷の中心部分に厚みがあるかさぶたが残りがちです。一気に剥がしてしまいたい気持ちになるでしょうが、残存しているかさぶたを無理に剥がすと、未修復の皮膚があらわになり、また傷ができたときと同じふり出しに戻ってしまいます。
〇初期の床ずれは治療環境にも注意を
上皮組織がきちんと修復されれば、かさぶたははがれ落ちます。しかし、周辺の皮膚と比べると薄く、皮膚のターンオーバーを繰り返して除々に元通りに近づきます。ただ、修復している最中にも、傷部分を圧迫して皮下組織を傷つけるような姿勢が続くと、皮膚は元通りに完治しません。
床ずれをおこした部分は、絶えず患部に圧や刺激が加わり続けます。このような場合は、傷全体を覆うように創傷被覆材を貼って、かさぶたにせず湿潤療法で床ずれを治療するのが望ましいでしょう。
被覆材で保護しているとはいえ、体圧が加わる姿勢をとり続けると、皮膚が修復するまでに時間がかかります。他の場所にも床ずれが起こらないように注意しながら、初期段階で治癒させる取り組みを考えることが大切です。