理学療法士と法律の関係

臨床の現場では様々な意思決定の場面に遭遇します。意思決定をする時、法律や病院の規則に基づいて行うこともあれば、上司のアドバイスなどに従いながら処理をしていくこともあるでしょう。
法律が理学療法士の行為にどれほど関与していくのか、気になるものです。

理学療法士と倫理

法律は遵守すべきことですが、例えば、医師の指示書が患者の状態にそぐわない場合、理学療法士はどのように対処すべきでしょうか。

理学療法士は理学療法士及び作業療法士法2条3のもと医師の指示が前提で作業を行うことになります。
そうなると、指示書に基づいてリハビリテーションを行ったが、効果が上がらず、患者も理学療法に対するやる気をなくしてしまった場合、医師の出した理学療法の指示内容に疑問を感じても、患者へのリスクなどがあきらかでなければ、指示された内容のリハビリテーションを継続することもあるでしょう。

しかし、もし患者に骨折等の危害を生じさせるようなリハビリテーションの指示があった場合、安全性の観点から医師に確認を行うのは問題のない行為です。

理学療法士業務指針の「医師の指示に関する事項」には「理学療法士は、疑義がある点について医師に確認を求めるものとする」とあります。
業務指針とは、国が定めた法律ではないので法的強制力はありませんが、法律上の義務以上の内容が盛り込まれています。

臨床の現場において、リハを行う患者の健康の回復や維持、症状緩和のために医療は行われ、理学療法士はそのために持てる知識と技術を提供しなければいけません。

医師の指示ではリスクを伴うような対応をしてしまうと、それこそ、使命感のない仕事をすることになります。法律で明記されていない「配慮」をすることが、理学療法士に求められることでしょう。

理学療法士と注意義務

法律上、ある行為をする時には一定の注意を払う義務が要求されます。これを「注意義務」といいます。
では、理学療法士は、医療の現場ではどれくらいの注意義務が求められているかというと、「診療の補助」として位置づけられはしますが、業務の範囲内において、理学療法士も医師と同じように最高レベルの注意義務を負うと考えておいた方が良いでしょう。

仮に裁判になった場合「気を付けてはいたのですが」というようなレベルの注意ですと、過失(注意義務違反)が認められる可能性もあります。

また、運動療法(可動域訓練)は、開始時期や実施方法などが注意義務の焦点になるかもしれません。運動療法は経験によるもの中心ではなく、ガイドラインといった標準治療を中心にプログラムを構築する方が良いでしょう。

もちろん、ガイドライン通りに治療できない人もいると思われますが、そういったガイドラインから逸脱した治療を行う場合は、なぜその治療を選択したのかを合理的・客観的に説明できることが重要になります。

まとめ

法律は、最小限の倫理を規定したもので、その枠では解決できない対応が求められた時には、現場の適切な判断に委ねられます。
法令が定めていないところは気にしなくても良いということではなく、法令の求める以上の配慮を行うよう心掛けたいものです。