1990年代、高齢化社会の流れが顕著になった頃から、介護に対する注目度と重要性が高まり始めました。それまでは、床ずれを起こすような介護力にマイナスのイメージを持つ風潮もありました。
介護保険制度が導入されると、助成や補助制度を利用することで、在宅医療用具も手に届く価格になりました。しかし、それまでは医療用具を実費で準備しなければならないシーンも多く、特にガーゼや包帯など消耗品は使用頻度も多くて、医療費を膨らませる原因となっていました。
何とか、医療に掛かる値段を抑えて長期的なケアをしようと試み、時期を同じく始まったのが『ラップ療法』です。
○費用を掛けずに床ずれケアをする「生活の知恵」
現在は、フィルム材やドレッシング材を使用して、床ずれの創傷部をケアする方法が一般的です。医療施設や病院では、医療用のフィルムやガーゼを使っていたので、これまでもラップを用いてケアをすることはありませんでした。
しかし、在宅で寝たきりや介助を必要とする人の床ずれケアまで行うと、薬代や訪問介護などで医療費がかさみ、消耗医療具にまで金銭的に回らないという深刻な問題がありました。
そこで、調理用具消耗品としてよく知られている、透明フィルムのラップを床ずれに使用して傷口の保護をするという発想が生まれた、いわば生活の知恵による産物なのです。
○ラップ療法による床ずれケアの効果は
ラップは、多くの人が想像するように、非常に密着性が高く、ぴったりと覆うことができます。床ずれの患部は、上皮・真皮部分が欠損して傷があらわになり感染の危険性も高い常態です。保護を第一の目的として、患部にラップをかぶせることで、外的な感染や汚染を防ぐことができました。
しかし、その密着性の高さによって、反対に滲出液を閉じ込めてしまうため、患部の周りまでも浸軟させる可能性があり、湿潤コントロールが難しいという問題もあります。
○ラップ療法から派生した粘着フィルム
床ずれの患部は創傷被覆材(ドレッシング材)を使用して、湿潤状態を保ちながら保護することが大切です。清潔な状態を保つために、こまめな交換が必要になるので、やはりケア用品のコストが問題となります。
市販のラップを使って行われてきたラップ療法にヒントを得て、医療用(穴あき)粘着フィルムが開発されました。表面を保護して被覆するだけではなく、余分な水蒸気や二酸化炭素を投下して、必要な酸素を取り入れる性質があります。
これによって、患部の蒸れや浸軟を押さえ、過多の滲出液を穴から排出することができる様になりました。
ラップ療法を医療用に改良した粘着フィルムの普及で、高価なドレッシング材を使わずに経過を見る機会も生まれました。しかし、患部(滲出液)の状態によっては、ドレッシング材を使ったほうが良い場面も往々にあります。
かかりつけ医の診断と指示に従って、適切に処置を行うことを優先して、その上で使用する医療用品を選択するようにしましょう。