褥瘡を発症すると、その創傷部分に外用薬を塗布し、傷口を覆うためにガーゼやドレッシング材など創傷被覆材を使用します。
褥瘡の治療や予防に必要なお金は、薬だけにとどまりません。日々過ごすベッドのマットレスやクッションなど福祉用具のレンタル費用や、入浴・食事の指導を行うケアワーカーへの介護保険料支払い、必要となれば入院費まで、寝たきりの介助を支える医療やサービスにお金がかかります。
少しでも出費を抑えて、効果的・端的に処置を続けてあげたいという思いは、介助を担う人の願いです。
そこで、在宅中の処置で一部の人が実践している「ラップ療法」が気になる人もいるでしょう。
ラップ療法に対する効果はどうなのか、またラップを用いることによる弊害はないのかを考えます。
〇ラップは医療用具ではないという前提
ラップと聞いて、だれもが想像するのはやはり、キッチン用品として販売されている透明フィルムでしょう。
褥瘡の処置で一部使用されているラップはまさしくこれで、透明ラップを患部に密着させて使用します。
ドレッシング材と同じ要領で使用しますが、このキッチン日用品として販売しているラップに着目して使用が広まった理由は、やはり価格の安さです。
●患部の被覆という目的
重度の褥瘡になると、表面が硬化乾燥して、細胞の壊死が進行します。皮下組織が損傷してさらに深部に進んでいけば、その創状態は悪化するばかりです。
損傷壊死した細胞は、浸軟させてきれいに取り除かねば、新しい細胞は育ちません。必要に応じて外科的な処置(デブリードマン)を施し、悪化細胞を除去すれば、深く細胞が欠損した創傷部があらわになります。
この時点で最も気を付けなればならないのが感染でしょう。患部があらわになったままでは、外的感染源や創傷部の汚染によって、常に感染リスクにさらされます。
ぴったりと傷を覆って患部を包むことができれば、感染のリスクが格段に下がります。これが被覆の大きな目的です。
●ラップ療法は危険なのか
もちろん、ラップは医療用具ではありませんし、フィルム材やドレッシング材と全く異なるカテゴリーです。
とはいえ、市販ラップ製品の密着度や被覆程度は、使ったことがある人ならすぐに想像できるほど優れています。
ガーゼに代わって被覆材が登場した当初は、その価格が非常に高く、安価なラップで代用するという流れが非常に強かったですが、現在は価格も落ち着き、ラップを基材として褥瘡処置をする動きは少なくなりました。
ただ、褥瘡処置を迫られて、緊急的に使用するには十分に有効でしょう。
創状態をきちんと把握して、必要な処置を選択できるような、基本的な創診断ができる場合は、問題も少ないでしょう。
●ラップを使用してはいけない褥瘡
創の状態によっては、ラップが効果的な場面とラップを用いてはいけない場面があります。
まずラップは性質上、水蒸気を通しません。ぴったりと覆ってしまうことで皮膚を浸軟させてしまう危険があります。このことから、早期段階の褥瘡にはラップ療法は向いていません。
そして、ポケット内に感染があるような深い創、筋膜壊死の下に感染が疑われる創に使用してはいけません。
重度の褥瘡はまず感染源と感染細胞を取り除くことが第一です。そして、これらの判断は介護者が簡単にジャッジできるものでもありません。
ラップ療法が全く以て危険だということではありませんが、創の状態を見ること、必要な処置が想定できる人によって行われるべきでしょう。
ドレッシング法の中の選択肢としてとらえて、有用だと判断ができれば慎重に実施しましょう。