褥瘡治療で注目されているのが「細胞の不死化」です。細胞が壊死して治癒を遅らせることが災いとなり、他の感染症も引き起こす褥瘡の発症は、寝たきりの患者さんにとって特に深刻な問題です。体の自由が利かず、同じ姿勢を取り続けていることを強いられる患者にとって、体の圧迫箇所を0にすることは難しく、そのために体位変換やマットレスを併用して圧迫を回避し、血流を促しながら褥瘡を作らない環境づくりをすることが最も有効なケアであり重要視されます。しかし、寝たきりとなるきっかけとなったけがや病気の看護観察以外に、新たな病症を生む可能性ともなる褥瘡は、現在はまだケアで可能性を減らすためのいたちごっこの状況から抜け出せていません。細胞が壊死せず、再生能力が高まれば、褥瘡そのものの発症リスクを大幅に減らすことが可能となります。
○細胞の不死化研究
人間体内では、絶えず細胞が生まれ変わり新たに生成されています。一度誕生すると全ての細胞が生命の死を迎えるまで年を取り続けるわけではありません。生殖細胞と呼ばれる、新たな生命を生み出すための元となる細胞は、変わらず年もとらず、老化することは有りません。生殖細胞が老化したら、老化した細胞を生み出すことになってしまいます。この細胞には遺伝子情報を伝え続けるという役割があり、生殖細胞が無くなってしまえば新たな細胞も誕生しません。
●不死化細胞のがん化
不死化細胞の一例がガン細胞です。生殖細胞とは普段、増殖するためのスペースがない限りじっとしています。何らかの身体的作用によって、増殖するスペースが生まれると、生殖活動を開始します。良性の細胞は体内器官を維持し生成するための細胞を作りますがしかし、生殖細胞全てが正常なものとは限らず、体に害があるものの代表がガン細胞と言う訳です。
●テロメラーゼと生殖細胞
体内にはテロメラーゼという(たん白)酵素があります。このテロメラーゼという活性酵素があることで、細胞が短縮することなく反復して細胞分裂を行う事ができます。しかし、このテロメラーゼが活性しない細胞では、細胞分裂するごとに短縮し、一定以上短くなってしまうと細胞が老化してしまいます。分かりやすく説明すると、テロメラーゼという活性酵素が細胞に備わっていれば、生まれる細胞が老化することなく生き続けることができるということです。
○ガン細胞研究の応用
生殖細胞の研究は、ガン細胞の増殖を抑える研究と通じています。ラット研究などで実際にテロメラーゼを基にしたガン細胞の抑性研究は行われており、不死化細胞研究は医療の現場でも実用化されつつあります。細胞の移植・再生という方法がありますが、自分の体の細胞の一部を培養して、障害ある箇所へ幹細胞を移植することによって、損傷患部の組織を生成することができる医薬品も開発され、今後の褥瘡ケアは劇的に変わっていくかも知れません。