きっかけはほんの小さな皮膚のただれと思われがちですが、床ずれは完全に回復するまで、ケアを怠ってはいけません。
特に注意したいのは、床ずれが起こった後の処置と全身観察です。傷の変化は毎日少しずつにしか見えませんが、皮下組織の下に褥瘡が広がると、全身感染を引き起こし、敗血症になる危険性があります。
創傷部の変化を見逃さず、必要に応じて適切な処置をしなけばなりません。中でも創面の下に浸食するポケット形成には十分注意しましょう。
〇感染の危険性大 ポケットのある床ずれ
見た目は小さな傷のように見えて、実は深刻な床ずれだったというケースが「ポケット形成した褥瘡」です。
創傷初期に皮下組織が傷つき、その後にずれ力がかかって皮下組織内で褥瘡が広がるため、創面が小さくて深部に広がっていくというのが特徴です。CT画像診断をすると、皮下組織の下で膨らんだ砂時計の型に似た断面が確認できます。
ポケットができると、細胞が壊死して正常に育たないので自力回復は不可能です。壊死細胞をすべて除去して新たに組織細胞を育てる処置が必要になります。
ポケットに感染が無ければ、壊死細胞を融解して取り除いてもよいですが、炎症反応があるときは、すぐに切開して炎症細胞と壊死細胞を除去しなければいけません。
赤く腫れて熱っぽい、脈を打つような疼痛がある、傷周辺が盛り上がっている。これらは感染して炎症を起こしたときの兆候です。
●床ずれから体調不良も 全身感染の場合
ポケットが深ければ、それだけ中に膿が溜まりやすく、壊死細胞が滞留しやすくなります。感染が起こると、切開してポケットの内部にある感染源をすべて取り除かなくてはなりません。
床ずれの感染が原因で全身の不調を招くことがあります。骨髄炎や筋膜下感染を起こしていると化膿の兆候がなく、発熱や悪寒、激痛をおこすこともあります。
血液に入り込んだ感染菌によって、敗血症を引き起こし、全身症状が現れて初めてポケットに気付くというケースもあります。
〇局所感染創を切開して敗血症を防ぐ
感染した組織(黒色の壊死細胞)の周りに、化膿の兆候があれば、確認後ただちに切開・切除を行います。
ポケット創の内部は、膿が溜まって滲出液も多く、安易にメスで切開すると大出血する可能性があります。電気メスで切開し、十分に開放してデブリートメントを行います。
ただし、敗血症のように全身症状の悪化がある場合は、まず感染源に効果のある抗菌薬で全身の症状回復を行うのが先決です。
全身感染は、処置が遅れれば命を落としかねない、恐ろしい状態です。重篤な場合は治療が長引き、離床できずに廃用性症候群になる場合もあります。
床ずれのケアは、薬を用いて単に傷を鎮静化してきれいに治すことではありません。観察と兆候を見逃さないことこそが、床ずれに必要だといえるでしょう。