寝たきりで過ごしている人は、運動による体力消耗が非常に少なく、おなかがすかなくなる・食べ物をほしがらなくなるという兆候をよく見かけます。
ずっと同じ姿勢、同じ景色を見ていると、気分も低迷して時間の経過感覚がつかめなくということも理由の一つでしょう。
しかし、寝たままの姿勢で過ごしている人でも、体に必要な栄養素は十分に摂取しておかねばなりません。
人は何もしていなくても基礎代謝によって、エネルギーを消費しているのです。
基礎代謝エネルギーは、生存にかかわる必要な栄養です。これが不足してしまうと、生命活動維持がかなわなくなってしまいます。
何より、少しでも健康な身体状況をキープしつつ、床ずれを予防するためには、十分なエネルギーとたんぱく質の摂取が欠かせません。
〇基礎代謝エネルギーが不足すると
人間の体細胞は、多くがブドウ糖をエネルギーにして活動します。そして、エネルギーを摂取したうちの70%は基礎代謝で消費します。
外部の栄養摂取が不足すると、基礎代謝によってたんぱく質からブドウ糖を生成します。
●たんぱく質の摂取と基礎代謝
ブドウ糖が不足すれば、体の40%ほどを占める筋組織を分解してブドウ糖を生成します。これは、人間の生命維持のために行う身体機能の一つであり、「異化作用」と呼ばれています。
体が正常な基礎代謝を行うための最終手段をとっているといっても過言ではないでしょう。異化作用は、栄養不良が続いているという証拠で、さらに異化亢進状態になると体内でタンパク質が合成されなくなってしまいます。
基礎代謝の維持に加えて、傷ついた褥瘡部分の細胞を生成して組織を再生するためには蛋白質が欠かせません。
たんぱく質(アミノ酸の組み合わせ)によって細胞は作られています。たんぱく質をブドウ糖に変化させることができても、ブドウ糖や脂肪からたんぱく質は作られません。
よって、床ずれの予防を考えたときには、たんぱく質やアミノ酸は食物や補助食品から十分に摂取しなければならない、ということになります。
〇床ずれケアと食事療法
床ずれを予防するために食事療法を取り入れるなら、まずは低栄養状態を作らないということが非常に大切です。
人が生きていくために必要なエネルギーは(高齢者の場合で)1日に900キロカロリー、たんぱく質35グラム以上。これを下回ると、前述したような異化作用が始まるといわれています。
しっかりカロリーをとり、たんぱく質を創傷細胞の再生に使うことができるように、高たんぱくな食事をとることを心がけましょう。
ただ、カロリーとたんぱく源にばかり気を取られると、食べるという行為が機械的になってしまい、食事を行わねばならないという義務感も起こります。これでは食べる楽しみを感じられません。
嗜好や寝たきり介護者の好みに沿った調理も大切です。食べることを楽しみながら、嚥下能力に合わせた食事ができるように配慮しましょう。