創傷ケアと聞けば、ガーゼや包帯など通気性の高いものを使用して、外用薬を塗布するという考えが一般的です。しかし、褥瘡は皮膚の深部にまで進行する可能性が高く、また細菌感染症などのリスクも高いため、通常の外傷と同じケアをしても根治させることが困難です。
そのため、感染症リスクを抑え、薬の効果を傷の深部にまで浸透させるために用いられるようになったのがラップ療法です。現在では、褥瘡の処置に欠かすことができない療法として広く知られるようになりましたが、現在の治療のように広く知られるまでには、さまざまな医療的問題をはらんでいました。
○褥瘡治療とラップ療法の問題点
褥瘡は、その傷の進行具合や表面、またポケットの状態が刻々と変わっていきます。皮膚のバリア機能が失われた状態が続くと、皮下組織形成と感染源の侵食や細胞壊死のスピードバランスによって、おなじ褥瘡でも状態が一定ではなく、その時々で効果的な治療法を実践していくほかありません。
特に、表皮が欠損している褥瘡は、皮下組織生成のために滲出液が多くなり、水分過多の状態になることもあります。このような状態では、適切なドレッシング材を選ばなければ、水蒸気を通さない創傷部分の浸軟がひどくなる危険があります。また、ポケット内に壊死がある・壊死の下に感染がある場合もラップ療法は禁忌です。
創感染の有無や壊死細胞をきちんと判定することができる医師の元で行うのがラップ療法を行う前提といってもいいでしょう。
○ラップの発展系 褥瘡の治療で用いる際の注意
褥瘡治療でのラップ療法とは、主に食用品の市販されているラップを利用して、創傷部分を覆うドレッシング法です。現在頻繁に使用されているポリウレタンフィルムドレッシング材やハイドロコロイドドレッシング材の開発元となった療法とも言われます。
ラップを用いる場面を想像すれば、その効能や利用方法は容易にわかるでしょう。創傷に薬を塗布し、そのままラップで覆うという方法は、褥瘡ケアにかかる創傷被覆材の価格と比べて非常に安価で、しかもガーゼを用いたときよりも痛みなくきれいに取り除けるという利点が、在宅治療を中心にインターネットを通じて普及しました。
現在では、医療現場でもラップ療法を応用した穴あきタイプのフィルム材を使用するなど、ラップ療法の認知度と信頼度が高まっています。しかし、創傷の状態を把握して治療法を選択する判断が難しいため、ラップ使用で効果が得られる創に、適切に使用するというジャッジも困難になります。
ラップ療法そのものには賛否両論ありますが、創傷治癒や湿潤環境を総合的に判断できる状況で褥瘡治療を行わねばならないというのが、論点の根底となっていることに違いはないでしょう。