長期臥床が寝たきりを助長する 筋力低下とその弊害

一度入院をして、重度の感染症治療やICUでの集中治療を経験したことがある人は、寝たきりの状態がその後の生活をリスタートさせるためにどれだけ障害になっているかを実感するといいます。
寝たきりで過ごす時間が長くなればなるほど、再び以前の生活を送ることができるようになるまでに、ずいぶん長いリハビリ期間を必要とします。


○体が思い通りに動かない
高齢者の場合には顕著ですが、若い年代層の人でも、一時期寝たきりの生活を過ごすと、そののち再び立ち上がって通常の生活を送るまでに、数倍または十数倍の時間をかけてリハビリすることが必要だといわれています。臥床位が長くなると、体が動かしにくくなり、思い通りに動けないということが起こるのは、どの年代の人にも共通しています。そして、次第に長期療養中に起こる心身の変化が起こります。

 
●筋力と機能の低下
長期間安静にしておかねばならない病気を患ったとき、体は常にベッドの上で横たえた姿勢が長くなります。褥瘡リスクが高まるだけではなく、この「安静にする」という医療的にも必要な処置が、体の筋力低下に大きく作用します。
集中治療室での経過観察や、胸部腰部の骨折など、過度な安静状態を余儀なくされる姿勢が長引いて「動かせない」状態が続けば、更に動かせないと思っていた身体に「動かない」という変化が徐々に起こり始めるのです。
これは、体を動かさなくなったことによる筋力の低下を表します。動かない体がその先に「動けない」状態になると、医学術的には廃用症候群といわれる症状に当たります。

 
●動けないことへの喪失感とやる気の低下
症状に応じて、長期臥床が必要なのは致し方ありません。しかし、長期臥床が長くなれば、人の体は動かしていない部分に元来備えている機能を、どんどん低下させてしまいます。
動作は、筋肉に刺激を与えるための指令を出す脳の活性を促し、動かした部分の血流が良くなるために、人は日常を問題なく過ごす身体機能を維持しているのです。
動かせないストレスから、動けないという喪失感に変わり、やる気がそがれてしまうため、さらに活動的になれずに寝たまま過ごし続けてしまうという悪循環に陥ってしまいます。

 
○生活にメリハリや変化がなくなる
寝たまま過ごす生活は、ただそこで時間の経過を待っているかのように、静の時間が非常に多くなります。視覚や聴覚、嗅覚の刺激が少なくなり、脳の働きが抑制された状態です。安静をケアするために介護人がすべてお世話をしてしまうと、更に筋力は低下し、自分で起き上がることや、手を動かすというわずかな動作も重く、辛く感じるようになります。
寝たきりの姿勢は、筋力を日増しに奪い、自分で動かせなくなった体と精神面の落ち込みで、心がふさぎ込む原因となります。
できる限り外に連れ出す、ベッドの上で寝る安静からベッドの上に座って過ごす安静を勧める、などの対策をとって、とにかく動くために必要な筋力と気持ちのメンテナンスを維持するように、ケアしていくと良いでしょう。